日本では宝くじなど一部を除き、ギャンブルで一定の利益が生じたら確定申告を行わなければなりません。
ウマ娘ブームにより、近年若い層にも大人気となっている競馬でも一定の利益が生じたら税金が発生します。
では、負けたときはどうなるの?ハズレ馬券は経費として数えていいの?経費じゃないの?疑問に思っている人もいることでしょう。
今日は競馬好きなら知っておきたい税金のお話です。
日本では競馬などギャンブルで年間50万円以上の利益が生じたら、税金を支払わなければいけません。
競馬から得た利益は基本的に「一時所得」に分類されます。一時所得とは、たまたま受け取った収入のこと。ほとんどの人が当てはまるであろう、趣味や娯楽で競馬をする場合がそれにあたります。その場合、損失、つまりハズレ馬券は経費として認められていません。
細かい計算方法などはこちらの記事【ギャンブルの税金徹底解説】でご覧いただくとして、「ハズレ馬券は経費として認められない」と、どういったことが起こり得るのでしょう?ざっくり簡単にいうと、次のようなことです。
例えば一年間で1000万円競馬に費やしたとします。そのうち800万円分はハズレ馬券でした。残りの200万円から得た払戻金は600万円。その場合、結局のところ一年間で1000万円使って勝ったのは600万円なので、トータルでは400万円のマイナスです。しかしハズレた馬券に使った800万円は考慮されません。つまり、400万円のマイナスが生じているのに税金を払う必要が生じる、っていうなんとも納得いかない状況が起こってしまう(個人の見解ですが)・・・ということなのです。
このことは、お笑い芸人のじゃいさんの活動によって知ったという人もいるかもしれませんね。
じゃいさんは2021年、競馬で6000万円以上の大勝ちをしたのですが、その後追徴課税により多額の税金を支払うことになりました。じゃいさんは追徴課税金を全額支払いましたが、以来、日本の競馬ファンのために法律の見直しを求める運動を展開しています。
しかし、競馬での払戻金が「雑所得」に分類されることもあるのです。雑所得とは、「営利を目的とする継続的な行為」です。アルバイトや副業などがこれにあたります。雑所得に分類されると、ハズレ馬券購入費が経費として認められます。
それなら「最初から雑所得で申告したらいいんじゃないの?」って思うところですが、先ほど言ったように、競馬の払戻金は基本的にはすべて一時所得の扱いになります。
では「例外的に」雑所得として認められる場合ってどんなときなのでしょう?
過去には競馬のハズレ馬券が経費であるかどうかが争われた裁判がありました。それらの裁判例から見ていきましょう。
最高裁判所は2015年(平成27年)3月10日に出した判決で、競馬の払戻金が雑所得に当たる場合があり、その場合はハズレ馬券の購入代金も必要経費として控除できるとしました。
以下が最高裁判決の概要です。
競馬の馬券の購入を機械的、網羅的、大規模に行っており、かつ、そうした購入を実際に行っていることが客観的に認められる記録が残されているなどの場合において、 ①競馬の馬券の払戻金は、一時所得と雑所得のいずれに該当するか、 ②所得金額の計算上控除すべき金額は、的中した馬券の購入金額に限られるか否か、 が争われていた裁判で、最高裁平成 27 年3月 10 日判決は、競馬の馬券の払戻金はその払戻金を受けた者の馬券購入行為の態様や規模等によっては、一時所得ではなく、雑所得に該当する場合があり、その場合においては外れ馬券も所得金額の計算上控除すべき旨、判示しました(国税庁ページより抜粋) |
最高裁で争った男性が、具体的にどのように馬券を購入していたかを見てみましょう。男性は、確かに「機械的、網羅的、大規模に」馬券を購入しており、さらにインターネットを利用していたため、記録も残されています。
なお、判決後、一定の条件を満たす場合「雑所得」に分類されるという旨が「所得税法第34条第1項、所得税基本通達34-1」の(2)に追加され、改正されました。
改定後 |
(一時所得の例示)
34―1 次に掲げるようなものに係る所得は、一時所得に該当する。 (1)懸賞の賞金品、福引の当選金品等(業務に関して受けるものを除く。) (2)競馬の馬券の払戻金、競輪の車券の払戻金等(営利を目的とする継続的行為から生じたものを除く。) (注)1 馬券を自動的に購入するソフトウエアを使用して独自の条件設定と計算式に基づいてインターネットを介して長期間にわたり多数回かつ頻繁に個々の馬券の的中に着目しない網羅的な購入をして当たり馬券の払戻金を得ることにより多額の利益を恒常的に上げ、一連の馬券の購入が一体の経済活動の実態を有することが客観的に明らかである場合の競馬の馬券の払戻金に係る所得は、営利を目的とする継続的行為から生じた所得として雑所得に該当する。 赤字が追加部分 |
また、2017年(平成29年)12月にも最高裁が雑所得として認めた判例があります。
こちらの男性の馬券購入について見てみましょう。
こちらの男性も2015年の裁判の際の男性と同様、長期にわたりほぼすべてのレースに大金をかけており、「網羅的で大規模」に馬券購入を行っています。
しかし、先ほどの男性と異なり、ソフトは使用していません。この部分に関し、最高裁による判決後、「所得税法第34条第1項、所得税基本通達34-1」の(2)が再度改正されています。さらに、競輪による払戻金に関しても付け加えられています。
改定後 |
(一時所得の例示)
34―1 次に掲げるようなものに係る所得は、一時所得に該当する。 (1)懸賞の賞金品、福引の当選金品等(業務に関して受けるものを除く。) (2)競馬の馬券の払戻金、競輪の車券の払戻金等(営利を目的とする継続的行為から生じたものを除く。) (注)1 馬券を自動的に購入するソフトウエアを使用して定めた独自の条件設定と計算式に基づき、又は予想の確度の高低と予想が的中した際の配当率の大小の組合せにより定めた購入パターンに従って、偶然性の影響を減殺するために、年間を通じてほぼ全てのレースで馬券を購入するなど、年間を通じての収支で利益が得られるように工夫しながら多数の馬券を購入し続けることにより、年間を通じての収支で多額の利益を上げ、これらの事実により、回収率が馬券の当 2 上記(注)1以外の場合の競馬の馬券の払戻金に係る所得は、一時所得に該当することに留意する。 3 競輪の車券の払戻金等に係る所得についても、競馬の馬券の払戻金に準じて取り扱うことに留意する。 青字は変更部分、赤字は追加部分 参照:国税庁一時所得の例示 新旧対照表より抜粋 |
雑所得として認められないケースもあります。
2016年9月、東京地裁は次のような競馬馬券購入を行っていた男性に「馬券購入行為が一般的な馬券購入行為と質的に異なるものであるということはできない」という判決を下しました。
ハズレ馬券が経費となる「雑所得」に認められるためには、馬券購入が「営利を目的とする継続的な行為」つまり、
に実行されていると認められる必要があります。さらに利益の発生、その他の態様、その他の状況・・・が加わり、総合的に判断される、ということ。
・・・これまでの判例を見ていると、そのハードルはとんでもなく高い。日本を探し回ってもこの条件を満たせるのってごくごくごく僅かな人たちだよね、ということになります。
ということがわかり、さらには雑所得として認められるにはハードルがものすごく高いということもわかりました。つまり、ほとんどの人にとって雑所得にしてほしいと願うことは非現実的でしょう。
実際のところ、そもそも一次所得でもハズレ馬券を経費として認めてほしいという声があります。また、馬券を購入した時点ですでに税金を収めているのにさらに利益がでたら税金が発生するのは「2重課税」だという批判も多く聞かれるところです。
2023年4月には大阪のIRが認定され、数年後には日本で初めてカジノがオープンする見込みです。
このことも踏まえ、この数年のうちに競馬など既存のギャンブルの税制に関し、大きな変更があるかもしれませんね。みんなが納得できるような改正に期待したいところです。
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記事ソース:https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/934/084934_hanrei.pdf
:https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=87308